歴史の概要
1900年、当時の車はまだキャリッジスプリングを使用していました。当時のドライバーはそのドライブ性能に大きな不満があり、走行中に乗り上げる岩やわだちを超える時のロールオーバーを避けたいと常々思っていたのです。
自動車メーカーの先駆者たちはかねてより、運転制御と快適性の向上という挑戦と向き合っていました。初期のサスペンションデザインは操舵軸とキングピンを使って前輪をアクスルに取り付けたもので、車軸を固定したまま車輪を回転させる仕組みでした。また、板ばねのストロークはショックアブソーバと呼ばれる装置によって減衰を行っていました。
これら初期のショックアブソーバは単純に2本のアームをボルトで摩擦ディスクに留めたもので、その抵抗はボルトを締めるか緩めるかによって調整していました。
当然の事ながら、そのショックアブソーバは耐久性が弱く、性能に関しても数多くの不満点が残されていました。その後年月を経て、ショックアブソーバはより洗練されたデザインへと発展していきました。
ショックアブソーバの役割
多くの人が "一般的なショックアブソーバは車重を支えていない" と思っていますが、この重要なポイントについて話をしましょう。ショックアブソーバの主な役割はスプリ
ングとサスペンションの動きを抑える事であり、その運動エネルギーはオイルを使って熱エネルギーに変換、放出されます。
ショックアブソーバは基本的にオイルポンプであり、ピストンロッドの先に取り付けられたピストンが圧力管の中で油圧の力に反する働きをします。サスペンションが上下に動くとオイルはピストンの中にあるオリフィスと呼ばれる小さな穴へと強制的に通され、それによってピストンの動きを抑え、さらにスプリングとサスペンションの動きを制御する仕組みになっています。
ショックアブソーバの抵抗力(減衰力)はサスペンションが動くスピードとピストンの中にあるオリフィスの数とサイズによって決まります。今日のショックアブソーバは全てサスペンションスピードを感知する油圧式減衰力デバイスで、サスペンションスピードの上昇に応じて減衰力が増加する構造になっています。この特徴によりショックアブソーバは様々な路面状況に応答して、スプリングの反発、ローリングや揺れ、ノーズダイブやスクウォットを抑えていきます。
ショックアブソーバは伸びと縮み両方においてオイルが移動(流体変位)するという原理により機能します。一般的な乗用車や小型のトラックの場合、縮みの工程よりも伸びの工程でより強い減衰力を発生するようになっており、伸び工程ではバネ下重量をコントロールし、縮み工程ではバネ上の動きをコントロールします。
縮み工程
縮み工程、または下方運動の際、オイルの一部はピストンを通ってBチャンバーからAチャンバーへと流れていき、また別のオイルはリザーブチューブ内のコンプレッションバルブを通過していきます。このオイルの流れをコントロールする為に、ピストンとコンプレッションバルブには、それぞれ3つのバルブ領域が設けられています。
ピストンにおいては、オイルはポートを通過し、ピストンスピードが遅い領域になると、1段目のブリードバルブが開き、オイル流量を制限することでBチャンバーからAチャンバーへのオイルの流れをコントロールします。
ピストンスピードが速い領域では、Bチャンバーのピストン内のオイル圧力が上がることで、バルブシートからディスクを開け放ちます。
ピストンスピードの高速領域では、2段目のリーフバルブが閉じ、3段階目のオリフィス特性となります。縮み側のコントロールはBチャンバーの高い圧力から発生する力によってもたらされ、ピストンの下部とピストンロッドエリアで作動します。
伸び工程
ピストンとロッドがチューブの上部へと移動すると、Aチャンバーの体積は減少し、Bチャンバーよりも高い圧力が掛けられ、この圧力によりオイルはピストンの3段階の伸び側バルブを通してBチャンバーへと移動します。
しかしながら、ピストンロッドがBチャンバーから放出されると、Aチャンバーの体積は減少し、Bチャンバーを満たすオイル流量が不十分になります。これにより、リザーブチューブの内圧はBチャンバー内よりも高くなり、縮み側の吸気バルブに圧力を掛けます。そして、流体はインナーチューブを充分に満たしながらリザーブチューブからBチャンバーへと流れます。
Aチャンバー内の高い圧力とピストン上部の作用により伸び側はコントロールされます。
ショックアブソーバのデザイン
今日では、ツインチューブ、ガスチャージ、PSD、ASD、モノチューブといったショックアブソーバのデザインが使われています。
一般的なツインチューブのデザイン
ツインチューブのデザインは
プレッシャーチューブの働きとして知られているインナーチューブと、
リザーブチューブとして知られるアウターチューブから構成され、このアウターチューブはオイルのリザーバーとして用いられています。
今日のショックアブソーバ
マウントには様々なタイプがありますが、その多くはショックアブソーバと車体またはサスペンションの間にゴムブッシュを用いてロードノイズやサスペンションの振動を抑えます。このラバーブッシュはサスペンションの動きに柔軟に対応します。ショックアブソーバのアッパーマウントは車両のフレームに取り付けられます。
ご存知の通り、ピストンロッドはチューブの上部にある
ロッドガイドとオイルシールを通ります。ロッドガイドはロッドとチューブに沿っていて、ピストンストロークの自由度を高め、またオイルシールはオイル漏れを防ぎ、ゴミの侵入を防ぎます。
プレッシャーチューブの下部にあるベースバルブは
コンプレッションバルブと呼ばれ、縮み工程のオイル流量をコントロールします。
ボアサイズとはピストンとプレッシャーチューブの内側の径で、一般的にその径が大きければ、より大きなピストンと圧力エリアが確保でき、高いコントロール性能が得られます。大きなピストン径がさらに大きくなると、圧力と温度は低くなり、より高度な減衰能力を発揮することができます。
ライドエンジニアは、様々な運転状況下でバランスと安定性が最適な運転特性を達成する為に、車両毎に
バルブの種類を選択します。ユニットの中のオイル量をコントロールするリーフスプリングとオリフィスの選択は、車両フィールとハンドリングにより決定されます。
ツインチューブ-ガス封入式
ガス封入式ショックアブソーバの開発は、ライドコントロール技術に大きな進歩をもたらしました。これにより、モノコック構造やショートホイールベースの自動車が増え、高いタイヤ圧による乗り味の問題を解決しました。
ツインチューブガス封入式ショックアブソーバのデザインは、アウターチューブ内に低圧ニトロゲンガスを封入する事で、現状数多くの乗り味に関する問題を解決しました。アウターチューブ内のオイル量に応じてニトロゲンガスの圧力は100~150PSIに変化し、そのガスはショックのライドコントロール性能を大幅に改善します。
ガスを封入する主な理由は、オイルのエアレーションを最小限に食い止める事です。ニトロゲンガスの圧力がオイル内に発生する気泡を抑えますが、このエアレーションを減らす事でショックはより迅速かつ的確な反応をし、瞬時のレスポンスとロードホールディング性能を高めます。
ガス封入ショックのもう一つの利点として、車両全体のバネレートを少し上げることが挙げられます。ガス封入ショックが車高を修正するというよりも、ボディーロールやぐらつき、ノーズダイブやスクォットを軽減し、車両の挙動を安定させるのです。
更にバネレートを上げることは、ピストンが上下する際の体積差にも影響を及ぼします。ピストン上部よりも下部の体積が大きいと、加圧されたオイルがピストンを押し上げようとし、ショックが自力で伸びようとするのはこの為です。
最後にガス封入式ショックは、これまで減衰力とエアレーションが要因でバルブデザインやチューニングを妥協せざるを得なかったエンジニア達に設計上の自由度を与え、より幅広いチューニングを可能にさせました。
メリット
- ロール、ぐらつきや沈みこみを減らす事でハンドリングが向上します。
- オイル式と比べてエアレーションを抑えられ、様々なロードコンディションでも的確なコントロール性能を発揮します。
- フェードの減少 - ショックは作動中に熱を帯びると減衰力を発揮しなくなってしまいますが、ガスが封入されると熱による性能低下を食い止める事ができます。
デメリット
現在採用されているカテゴリー
- ファミリーカー、コンパクトカー、SUV、小型トラックなどへ純正採用されています。
ツインチューブPSDデザイン
これまでのガス封入式ショックが開発されるまで、ライドコントロールエンジニアはソフトなバルブとファームなバルブという2つで妥協をしなければなりませんでした。ソフトなバルブではオイルはどんどんと流れ、結果的により柔らかい乗り心地となりますが、ハンドリングレスポンスは悪化し、車体の挙動は不安定になってしまいます。逆にファームなバルブではオイルはなかなか流れず、ハンドリングレスポンスは改善されますが、乗り心地は厳しいものとなってしまいます。
ガス封入式ショックの登場により、ソフトとファームのバルブに加え、オリフィスという小さな隙間でオイル流量をコントロールすることが可能になりました。従来のピストンスピードでもダンパーがより敏感に反応し、快適性とコントロール性能のバランスが向上したのです。
オイル流量の急激な変化をインナーチューブ内のバルブ位置で感知するという先進技術が
ポジションセンシティブダンピング(PSD)です。
この新しいアイデアのポイントはインナーチューブ内に設計された精密なテーパーの溝で、車種やグレードによって溝の長さ、深さ、テーパーを調節し、最適な乗り味とコントロール性能を発揮します。このインナーチューブ内には2つの異なる特性を持つゾーンがあります。
一つ目のゾーン(
コンフォートゾーン)は通常走行時に機能します。ピストンはインナーチューブの中央部付近でのみストロークしますが、この間はテーパーの溝をオイルが自由に流れ続けることでピストンの抵抗を減らし、スムーズで快適なドライブを実現します。
二つ目のゾーン(
コントロールゾーン)はハードな走行に対応します。ピストンはインナーチューブ中央部付近を外れ、溝の外へと移動します。そしてインナーチューブ内にある全てのオイルがピストンバルブを通ることで減衰力が高まり、サスペンション全体のコントロール性能を向上させ、結果として乗り心地を犠牲にする事なく、より良いハンドリング性能を実現します。
メリット
- 従来のピストン速度に反応するバルブにピストンの位置を感知する機構を併せ持つ事で、より高次元な乗り味のファインチューンが可能になります。
- 一般的なショックアブソーバよりも路面状況や重量の変化に素早く対応します。
- 快適性とコントロール性を一本のショックで両立させます。
デメリット
- 車高がメーカー基準でなければピストンの移動がコントロールゾーンにのみ限られてしまいます。
現在採用されているカテゴリー
- 主にセンサトラックブランドでアフターマーケット向けに展開しています。
ツインチューブASDデザイン
「一つのショックアブソーバで快適性とコントロール性の折り合いをどうつけるか」という大きなテーマをライドコントロールエンジニア達は長年に渡り議論してきました。そして、ガス封入式とPSD技術の出現によりこの議論が大きく前進しました。
更に
アクセレーションダンピング(ASD)と呼ばれる乗り心地を改善させながら優れたハンドリング性能を引き出す革新的技術が、快適性とコントロールにおけるエンジニア達の課題に更なる展開をもたらしました。
この技術は、従来の微低速領域の減衰力を高める一方で、衝撃吸収時にそなえ新型のコンプレッションバルブを採用する事で可能になりました。この新型コンプレッションバルブは、ある一定以上の衝撃が加わると開放され、バルブ周辺をオイルがバイパスするというクローズドループシステムを搭載しています。
この新しいバルブデザインの登用により、路面からの様々な衝撃に対してプレッシャーチューブが秒刻みで変化するようになり、優れたハンドリング性能を犠牲にする事なく、道路の凹凸を感知し自動的に衝撃を和らげることが可能となりました。
路面状況の変化に応じて車両の荷重変化をより適格に管理し、ブレーキング時のピッキングや旋回時のロールといった挙動を抑える事で、ドライバーは運転により集中する事ができます。
メリット
- 乗り心地を損なわずにコントロール性能を上げます。
- 自動調整バルブを採用し、様々な状況に応じて的確な減衰力を発生させます。
- ハーネスを減少させます。
デメリット
現在採用されているカテゴリー
- リフレックスブランドでアフターマーケット向けに展開しています。
モノチューブデザイン
ショックの中には一つのチューブ(
プレッシャーチューブ)のみで高圧ガスを封入したものがあり、プレッシャーチューブの中にはオイルとガスを
分離するピストンと、ロッドに直結し
可動するピストンの2つが備わっています。可動側のピストンとロッドはツインチューブショックのデザインととてもよく似ていますが、使用時の違いとして、モノチューブは逆さや横向きに装着しても同じ性能を発揮する事ができるので取り付け自由度が高く、またこのショックはスプリングとともに車重を支えるという重要な構成部品としての役割も果たしています。
その他の特徴として、モノチューブショックにはベースバルブが存在せず、代わりに伸び、縮み全ての減衰力をピストンバルブのみでコントロールします。
モノチューブ構造のプレッシャーチューブは、ショックアブソーバ下部のフリーピストンがガスとオイルを仕切っていて、ツインチューブ構造よりもストローク量が減ってしまう為、純正部品としては乗用車にあまり採用されていません。
オイルはフリーピストンの上部に充填され、一方ピストン側の下部にはニトロゲンガスが約360psi加えられ、この加圧したガス圧により車重を支えています。
常にプレッシャーチューブ内の性能を保つために、フリーピストンはショックの動作に合わせて上下します。
メリット
- 倒立装着が可能で第二の補助スプリングとして機能します。
- チューブ本体が直接冷やされるので、放射性に優れています。
デメリット
- ストローク量が確保しにくいので乗用車の純正採用が限定されます。
- プレッシャーチューブに凹みなどの損傷が生じた場合は、ユニット毎の交換が必要となります。
現在採用されているカテゴリー
- 国産車の純正品や、輸入車、SUV、小型トラックなど。
- アフターマーケットでも多くのショックメーカーに採用されています。